情報処理学会の記事「情報学者が競馬予想に踏み出すときに知っておくべきこと」

情報処理学会の会誌に掲載された寺沢憲吾氏の記事がとても面白かったので紹介します。

出典:寺沢憲吾「情報学者が競馬予想に踏み出すときに知っておくべきこと」情報処理 Vol.60 No.2 (2019) https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/records/193772

どんな記事か

タイトルの通り、情報系の研究者が機械学習などを使って競馬予想に取り組もうとしたときに、事前に理解しておくべき前提知識と考え方を整理した記事です。技術寄りの読者を想定しつつ、競馬の構造を丁寧に説明してくれています。

大まかな内容としては以下のようなトピックが扱われています。

  • パリミュチュエル方式におけるオッズの計算方法と控除率
  • オッズが集合知として機能しており、その精度が非常に高いこと
  • AI で予想するときに陥りやすい「勝つ馬を当てる」という目的設定の誤り
  • 集合知を上回るためのいくつかのアプローチ
  • 競馬予想と株価予測の構造的な違い

どれも面白いのですが、特に印象に残ったのが「儲かる手法は公開してはいけない」という指摘です。

「儲かる手法は公開してはいけない」

記事では、仮に儲かる手法が構築できたとしても「それを決して公開してはいけない」と述べられています。理由は明快で、公開された情報は集合知に取り込まれてオッズが修正され、期待していた優位性が消えてしまうからです。

これは競馬の構造を考えると当然なのですが、改めて言語化されると面白いです。株式市場であれば、割安な株を買っても将来の値上がりで利益を得られます。しかし馬券には転売価値がありません。自分が見つけた「歪み」は、自分だけが知っているからこそ成立するものです。

つまり、AI 競馬予想の研究成果は本質的に公開できないという構造的なジレンマがあります。本当に利益が出る手法を構築した人は黙って使い続けるはずで、世に出回っている「AI 競馬予想」の類は――少なくともこの論理に従えば――あまり期待できないということになります。


ここで紹介したのは記事のごく一部です。オッズがいかに正確な集合知であるかをデータで示すくだりや、株価予測との構造的な違いの話など、読み応えのある内容が詰まっています。競馬に興味がある方もない方も、ぜひ原文を読んでみてください。