馬券を買うとき、「低確率・高配当」に惹かれるのは自然な心理です。大穴を狙いたくなる気持ちはわかりますが、データを見ると、大穴馬券ほど割に合わなくなっている実態が浮かんできます。
この現象は「本命-大穴バイアス(favorite-longshot bias)」として知られています。
1番人気の勝率はどのくらいかでは人気別の勝率や回収率を確認し、上位人気の回収率がおおむね払戻率どおりに収束していることを見ました。今回はさらに下位人気まで範囲を広げて、回収率の偏りを検証してみます。
人気別の回収率
JRA 直近5年(2021〜2025年)の単勝データを人気別に集計しました。
| 人気 | 勝率 | 回収率 |
|---|---|---|
| 1番人気 | 33.5% | 79.8% |
| 2番人気 | 19.9% | 80.7% |
| 3番人気 | 13.2% | 77.7% |
| 4番人気 | 9.2% | 74.9% |
| 5番人気 | 7.1% | 79.7% |
| 6番人気 | 5.3% | 80.0% |
| 7番人気 | 3.8% | 77.9% |
| 8番人気 | 2.8% | 75.1% |
| 9番人気 | 2.0% | 71.9% |
| 10番人気 | 1.6% | 72.8% |
| 11番人気 | 1.1% | 67.0% |
| 12番人気 | 0.9% | 68.4% |
| 13番人気 | 0.5% | 54.1% |
| 14番人気 | 0.5% | 58.0% |
| 15番人気 | 0.4% | 47.6% |
1〜7番人気あたりまでは回収率が75〜81%で安定していますが、それ以降は徐々に下がり始め、13番人気以下では50%台にまで落ち込みます。
細かい点ですが、1番人気の回収率(79.8%)が2番人気(80.7%)よりわずかに低いのは示唆的です。最も注目を集める1番人気は、わずかながら「買われすぎ」の傾向があるのかもしれません。バイアスは大穴側だけでなく、本命側にも薄く存在している可能性があります。
単勝の払戻率は80%なので、上位人気の回収率がそれに近い値になるのは自然です。一方、下位人気は80%から大きく乖離しています。
オッズが示す確率と実際の勝率
もう少し踏み込んで、オッズから逆算した「市場が見積もった勝率」と実際の勝率を比較してみます。
| オッズ帯 | 市場の見積り | 実際の勝率 | 回収率 |
|---|---|---|---|
| 1.0〜1.9倍 | 49.5% | 50.3% | 80.8% |
| 2.0〜2.9倍 | 32.7% | 32.9% | 80.7% |
| 3.0〜4.9倍 | 20.7% | 21.0% | 80.9% |
| 5.0〜9.9倍 | 11.6% | 11.3% | 77.5% |
| 10〜19.9倍 | 5.7% | 6.1% | 84.3% |
| 20〜49.9倍 | 2.7% | 2.6% | 76.9% |
| 50〜99.9倍 | 1.2% | 1.1% | 72.9% |
| 100倍以上 | 0.4% | 0.3% | 48.0% |
低オッズ帯(人気馬)では市場の見積りと実際の勝率がほぼ一致しており、回収率も80%前後で安定しています。
しかし100倍以上のオッズ帯を見ると、市場は0.4%の勝率を想定していますが実際は0.3%しか勝っておらず、回収率は48%まで下がります。つまり、大穴馬券は実力以上に買われている(=過剰人気になっている)ということです。
なぜこのバイアスが生まれるか
本命-大穴バイアスが発生する理由はいくつか考えられています。
- 高配当への期待 — 少額で大きなリターンを得たいという心理が、大穴馬券を必要以上に買わせる。宝くじと同じ構造
- 「万馬券」の印象 — 大穴的中の記憶は強烈に残りやすく、その確率を実際より高く見積もってしまう
- 低確率の過大評価 — 行動経済学で指摘される、人間が低確率の事象を過大に評価する傾向(プロスペクト理論)
このバイアスは利用できるか
バイアスの存在を知った上で「では逆に上位人気だけを買えば儲かるのか」というと、そう単純ではありません。上位人気の回収率は80%前後であり、払戻率の壁を超えるには至っていません。
ただ、少なくとも「大穴を狙い続けるのは構造的に不利である」ということは、データからはっきり言えます。大穴狙いは夢がありますが、長期的な回収率という観点では、その夢にはコストがかかっているということです。